オカメインコの遺伝解説

 

◆第1章 遺伝の基礎知識◆

1-1 はじめに

 一昔前までは,オカメインコといえばノーマルとルチノー(いわゆる並オカメと白オカメ)しか手に入りませんでした。このような品種の少なさに加え,日本の家屋事情などもあり,オカメインコの繁殖に対する興味は低かったといえましょう。
 ところが,最近ではホワイトフェイスやパイド,それにパールなど,様々な色変わり種が多く出回るようになってきました。ほとんどが輸入された成体ですが,色変わり種の雛を入手する機会も確実に増えてきています。色変わり種の手乗りオカメを飼われている方も多いことでしょう。
 こうなってくると,色々な品種を繁殖させてみたいと思うのは当然の成り行き。手乗り志向の方には自分の手で繁殖させた様々な品種のオカメインコを手乗りにする喜びがあり,またブリーディング志向の方には目指す色彩や配色を実現できる可能性が広がっています。巣引きの技術・知識も格段に向上しており,一般的なケージ内での繁殖に成功した例が数多く報告されています。今や,飼鳥にどのような楽しみ方を見いだそうとも,愛鳥家にとってオカメインコは大いに興味ある対象となっているのです。
 本稿では,色変わりの遺伝を学び,繁殖に役立てていただければと考えています。闇雲に様々な品種を掛け合わせても,思った通りの結果は得られません。しかし,わずかな基礎知識を学ぶことによって,オカメインコの色変わり種を作出する方法のほとんど全てを理解することができます。また,ペアリングの仕方を工夫すれば,生まれてくる品種によって雌雄判別が確実にできる場合もあります。さあ,みなさんも遺伝の基礎知識を学び,品種や繁殖に対する理解を深めていきましょう。

1-2 オカメインコの代表的品種(写真は品種解説のページを参照してください)

 まずは,現在よく知られているオカメインコの品種を紹介します。これらの品種は,日本において入手が可能なものばかりです。海外には更に珍しい品種も存在していますが,ひとまずはこのくらいを覚えておけばよいでしょう。
 以下に説明している色変わり種のほとんどは,お互いに組み合わせることが可能です。基本的な色変わりの種類は確かに多くはないのですが,組み合わせを考えると,大変多くの品種が存在していることが分かるかと思います。逆にいえば,基本的な色変わり種の特徴や遺伝形式さえ理解しておけば,ほとんどの品種について理解できるということにもなります。

1. ノーマル
 ショップなどでは「並オカメ」という呼び名で売られていることが多いようです。オーストラリアに生息している原種は,一般にノーマル種だと考えて良いでしょう。体色はグレーを基調としています。成鳥のオスは顔が明るい黄色となり,メスはわずかに黄色が混じる程度です。
 地味な羽色ですが,最近ではノーマル種の良さが見直されてきており,人気の品種となっています。そのためか,最近では次に解説するルチノーとの値段差はあまりなくなってきているようです。

2. ルチノー
 白オカメとしてお馴染みの品種です。ノーマル種の基調色である深いグレーを示す黒の色素が欠如しており,目は赤目となります。ただ,黄色の色素は失っていませんので,体全体がクリーム色を示します。黒の色素が欠如したことによって,オス・メスともに,明るい黄色の顔となります。ただし,メスは成鳥になっても外側の尾羽には白と黄色の縞模様が残っており,これによって雌雄の判別が可能です。
 なお,ルチノー種の特徴として頭部にある無毛部分があげられます。これは病気ではなく,遺伝的なものですので,特に心配する必要はありません。しかし,頭部の無毛部分は無理な繁殖の結果であるともいわれており,繁殖を試みる際には改善の努力を続けていくことが望まれます。

3. シナモン
 ノーマル種が持っている黒の色素が茶色に変化したため,薄い茶色を基調とした体色が特徴的です。目は黒目のままです。成鳥の雌雄判別はノーマル種に準じて考えればよいでしょう。優しい色合いが人気ですが,流通量はそれほど多くありません。
 なお,イザベラはシナモンの別称です。一部の地域では,イザベラとパールが混同して用いられているようですが,これは間違いですので,ご注意下さい。

4. パール
 ノーマル種のカラーパターンが変化し,羽の一枚一枚に黄色の水玉模様が入っています。この水玉模様は個体差が大きく,キリッと引き締まった印象を与える個体から,ぼんやりとしてどこか優しい印象を与えるものまで,実に我々の目を楽しませてくれる品種です。
 オスの成鳥は,黒色の色素の増大によって,徐々に水玉模様が失われていきます。完全な成鳥になると,ほとんどノーマル種のオスと区別がつかなくなってしまいます。外見上はノーマルのようですが,遺伝的にはれっきとしたパールであることには変わりありません。パール種がノーマル種に変化したという理解は間違いです。
 なお,パールの特徴の一つに,黄色い色素を強調することがあげられます。そのため,黄色が非常に強く出ている個体も散見されます。

5. パイド
 これもノーマル種のカラーパターンが変化したものですが,パールとの違いは,体全体に大きく斑が出るという点です。斑の出方はランダムですが,クリーム色とグレーのコントラストが美しい品種です。肩や翼の部分にはグレーが残ることが多いようです。このような斑の出方は,親子の間で遺伝する場合が多いようです。なお,雌雄の判別は体色からは非常に困難です。
 顔がきれいにクリーム一色になっている個体はクリアーフェイスなどと呼ばれ,愛好家に喜ばれているようです。体色のほとんどがクリーム色になってしまう個体も存在していますが,爪の色が1本だけ異なっている,くちばしにクリーム色や黒の線が入っている等の特徴が存在しているだけでも,パイドであることを確認することができます。

6. ホワイトフェイス(頬白)
 ノーマル種の黄色い色素が失われた個体です。その結果,黄色を示す部分が白に変化し,オレンジ色をした丸いホッペ模様も失われてしまいます。オカメインコのかわいらしい印象は薄れてしまいますが,大変清楚な印象を我々に与えてくれる品種です。雌雄判別はノーマル種に準じます。
 ホワイトフェイスに対する需要は近年とみに高まってきているようですが,流通量はそれほど確保されているわけではありません。特に,ホワイトフェイスの雛を入手するのは大変難しいというのが現状です。

7. アルビノ
 ノーマル種の黒い色素と黄色の色素の両方を失っているため,全身が真っ白になっています。目は赤目です。黒の色素の欠如はルチノーの特徴であり,黄色の色素の欠如はホワイトフェイスの特徴だということからも分かるように,アルビノ種は一般にルチノーホワイトフェイスの別称と理解されています。ルチノーとホワイトフェイスの両方の品種的特徴(遺伝子)を兼ね備えているわけです。わが国でも時折ショップで売られているようですが,まだまだ入手が困難であることは否めません。
 アルビノ種は赤目を持つと理論的には考えられますが,実際にはルチノーと同じようにブドウ目が多く,時には黒目をもった個体も存在しています。黒目の個体はスノーホワイトと呼ばれることがあり,珍重されます。

1-3 遺伝を考える要点は?

 「ショップで見かけたパイドオカメが気に入ったけれど,あれはノーマルとルチノーの雑種なのですか?」というような質問をよく受けます。確かに,直感的にそのように考えるのも無理はないでしょう。クリーム色とグレーの絵の具をちょっとだけ混ぜて,マーブルのように仕立てたものに見えますからね。
 でも,パイドは絵の具を混ぜる要領で作出することはできません。パイドという特徴を両親から譲り受けて初めて子供にパイドの特徴が現れるのです。実は,親から受け継がれた特徴は遺伝子によって裏付けられています。つまり,パイド種のオカメインコを作出するには,パイド遺伝子をもった両親をペアリングしなければならないのです。ここからもわかるように,色変わり種を作出しようとするならば,その色変わりを裏付けている遺伝子に注目しなければならないわけです。
 では,遺伝子はどこに存在しているのでしょうか。遺伝子は,細胞の中の染色体というのものに乗っていることが知られています。ですから,遺伝を理解するためには,遺伝子と染色体というものを理解しておかなければならないのです。親と子の間で染色体がどのように移動するのか,そしてその染色体にはどのような色変わり遺伝子が存在しているのか,この2点さえ理解できれば,オカメインコの遺伝のほとんど全てを説明することができます。

1-4 染色体とその種類

 そこでまず,オカメインコの染色体を並べてみましょう。残念ながら,オカメインコの染色体が何本(あるいは何対)で構成されているのかは明らかになっていません。オカメインコの研究がまだまだ進んでいないことが分かりますね。それはさておき,図1-1のように,オカメインコの染色体を大きなものから順番に並べてみましょう。

図1-1 オカメインコの染色体

 一番最後に描かれている2本の染色体を除けば,同形同大の染色体が2本で1対になっていることが分かるでしょう。これらの染色体は雌雄に共通して観察されるもので,常染色体と呼ばれています。
 続いて,最後の2本(つまり1対)は,同形同大の染色体の対になっていることもあれば,異形異大の染色体同士が対になっていることもあります。この最後の2本の染色体(1対の染色体)を性染色体と呼んでいます。
 常染色体は,オスであろうがメスであろうが,同形同大の染色体同士が対になって存在していると説明しましたね。これに対して,性染色体は,オスの場合には同形同大の染色体同士が対になっており,メスの場合には異形異大の染色体同士が対をなしているという特徴があります。つまり,性染色体の組み合わさり方によって性別が決定されているのです。オスの性染色体はZ染色体とZ染色体が対になっており,メスはZ染色体とW染色体が対になっていると表記するのが決まり事になっています。
 ご存じの方も多いでしょうが,ヒトの性染色体はX染色体とY染色体と表記します。実は,男性が異形異大の性染色体同士(X染色体とY染色体)が対をなし,女性が同形同大の性染色体同士(X染色体とX染色体)が対をなしているのです。オカメインコとヒトでは,性染色体の対のなり方が逆になっていることに注意して下さい。逆になっているから,XYという表記を使わずにZWという表記を用いることになっているわけです。豆知識です。

1-5 世代間の染色体の移動 〜 親から子への受け渡し

 子供は両親から染色体を譲り受けます。父親からは精子という形で,母親からは卵子という形で,それぞれの染色体をもらうわけです。でも,ちょっと待って! 精子や卵子が通常と同じだけ染色体をもっているとすると,子供の染色体数は親の2倍になってしまいますね。ご安心下さい。次のようなシステムが確立しているので,親の染色体数も,子供の染色体数も,全て同じになるのです(図1-2)。

 図1-2 減数分裂

 精子や卵子を作るにあたって,第一段階として,染色体が複製され,通常の2倍の染色体数になります。第二段階として,それが2つに分裂し,染色体数は通常に戻ります。第三段階として,さらに2つに分裂しますが,その際,染色体数は通常の半分になるのです。これが精子や卵子と呼ばれる細胞で,生殖細胞や配偶子などと呼ばれています。このような細胞分裂の仕方を減数分裂と呼んでいます。
 なお,オスの配偶子は1つの細胞から4つ作られるのに対して,メスの配偶子は1つの細胞から最終的には1つしか作られません。というのは,4つ作られたもののうち3つは退化してしまうからなんですね。
 減数分裂の仕組みは必ずしも知っておかなければならないわけではありませんが,遺伝の話をより深く理解しようとする場合には必要となってきます。後々お話しする予定の「遺伝子の組替え」という言葉が出てきたら,もう一度この説明を思い出して欲しいのです。
 さて,第三段階の分裂に注目してみましょう。この段階で染色体数が半分になるわけですが,そこにはきちんとした規則があります。どのような規則かというと,対を形成している2本の染色体は必ず異なる配偶子の染色体となるというものです。つまり,任意の配偶子は,第1番目の対からどちらか1本,第2番目の対からどちらか1本,第3番目の対からどちらか1本,・・・,そして最後の性染色体の対からどちらか1本をそれぞれもらい受けるわけです。こうして配偶子は通常の半分の染色体数を持ち合わせることになるのです。これは,精子も卵子も全く同じ仕組みです。
 このようにして作られた精子と卵子が出会い,結合することによって,生命は誕生します。そうすると染色体の数や対のなり方はどうなるでしょうか。精子は通常の半分の染色体を持ち,同様に卵子も通常の半分の染色体をもっていますね。ですから,両者が合体することによって,再び染色体数は元に戻り,2本ずつで対を形成することができるのです。
 最も単純に理解するとすれば,まず半分にして(配偶子),半分になったものを二つ合体させて(受精),それで元に戻る(雛の誕生)ということになります。

1-6 染色体上の遺伝子

 ここまでで,細胞に存在している染色体の種類について,そして染色体が配偶子を経て親から子へと受け継がれていく仕組みについて,ご理解いただけたかと思います。それでは次に,染色体と遺伝子の関係について考えてみましょう。
 遺伝を司っているのは,あくまで遺伝子であって,染色体ではありません。しかし,遺伝子は細胞のあちこちに散らばって存在しているのではなく,規則正しく列をなし,整然と存在しているのです。
 皆さんDNAという言葉をご存じですね。これが遺伝子の正体です。このDNAは,タンパク質と結合して染色体を構成しています。つまり,遺伝子は染色体上に整然と整列しているとまとめることができます。

図1-3 染色体と遺伝子

 簡単な概念図を書いてみました(図1-3)。染色体上に遺伝子が並んでいますね。しかも,対になっている染色体同士に注目すれば,それぞれの染色体の同じ位置に同じ様な遺伝子が存在しています。実は,これらの遺伝子同士はペアになって一つの働きをしています。●は●とペアになって働いており,同様に○と○もペアになって一つの仕事を成し遂げます。決して,●と○がペアになることはなく,また影響を及ぼし合うことは通常ありません。対をなす染色体の全く同じ位置に存在している遺伝子同士を常にペアとして考えるわけです。
 ここで一つだけ例外があることを断っておかなければなりません。Z染色体とW染色体の対を見て下さい。これはメスの性染色体ですが,W染色体上には遺伝子が存在していませんね。□や★などの遺伝子は,全てZ染色体上に存在していることが分かるでしょう。実は,性染色体の場合には,Z染色体上にしか遺伝子が存在していないのです。したがって,Z染色体とW染色体が対になっている場合には,Z染色体上の遺伝子が単独で一つの働きをすることになります(ペアとなるべき遺伝子が存在していないということです)。これは唯一の例外ですので,きちんとおさえていて欲しいと思います。

1-7 常染色体上の遺伝と性染色体上の遺伝

 我々は配偶子を作る際の染色体の動きについて理解できました。そして,遺伝子が染色体上に存在している事実を明らかにしました。そうすると,どの染色体にどのような遺伝子が乗っているのかが分かれば,遺伝子の動きまで把握することができますね。
 常染色体上に存在している色変わり遺伝子は,パイド遺伝子,ホワイトフェイス遺伝子です。何番目の対の常染色体上に存在しているのかについてまでは分かりませんが,パイド遺伝子とホワイトフェイス遺伝子は互いに異なる対の染色体上に存在していることが知られています。したがって,パイド遺伝子とホワイトフェイス遺伝子は互いに独立の関係にあるといえます。
 性染色体上に存在している色変わり遺伝子は,ルチノー遺伝子,シナモン遺伝子,パール遺伝子です。これらは全て,性染色体の中でもZ染色体上にだけ存在していることは,上に述べたとおりです。
 この事実は,オカメインコの遺伝を考えるにあたって,最も重要なことの一つです。是非,覚えていて下さい。

 本章では遺伝を考えるための前提的な知識について説明しました。次章は実際にペアを想定しながら,遺伝の仕組みを理解するための工夫について考えていきましょう。また,常染色体に関係する遺伝と性染色体に関係する遺伝の最も単純なパターンを考察していきます。


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