オカメインコの遺伝解説

 

◆第2章 基本的な遺伝の仕組み◆

2-1 色変わり種とは?

 私たちは今,オカメインコの遺伝を考えているわけですが,より正確に言えば,オカメインコの色変わりの遺伝を考えていることになります。そこで,色変わりという存在をどのようにとらえていけばいいのかという問題に直面します。本章では,まず,色変わりについての理解を深めていくことから始めましょう。
 ルチノーを例に考えてみましょう。ルチノーは,現在最もよく見かけるオカメインコの色変わり種で,ショップなどでは白オカメという名称が与えられています。では,このルチノーはノーマルのどの部分が変化して生まれてきた品種なのでしょうか。
 ノーマル種を頭に思い浮かべてみてください。体のほとんどの部分はグレーで占められていますね。これは,オカメインコが黒色の色素(メラニン色素)を持っているからなんです。この黒色の色素はどんな色も覆い隠してしまうと簡単に理解しておけばよいでしょう。さて,オカメインコは,黒色の色素の他にもう一つ黄色の色素も持っています。顔に黄色が入ったり,尾羽に黄色の縞が入っていることを考えれば容易に想像がつきますね。しかし先ほども説明したように,たとえ両方の色素が同時に存在していても,黒色の色素は黄色を覆い隠してしまいますので,メラニン色素が存在している部分は全てグレーに見えるというからくりです。
 グレーの正体がメラニン色素であることは理解できたかと思います。では,メラニン色素の考察を遺伝子の観点からもう少し深化させてみましょう。
 メラニン色素は体内で作られるわけですが,その設計図とは特定のDNAということになります。通常の体細胞分裂のみならず,生殖に関わる減数分裂の際にもDNAは正確に複製され,子供,孫,曾孫へ延々と受け継がれていきます。子供も孫も,そして曾孫も,正確に複製された同じ設計図(DNA)に基づいてメラニン色素を製造することが可能となるのです。
 ところが,DNAの複製は時に失敗してしまうことが知られています。紫外線の影響はよく知られた事実ですが,最近ではウィルス感染もその原因の一つだということがわかってきているようです。複製に失敗する確率は決して無視できるような低さではなく,むしろ驚くべき事ではないと考えた方がよいレベルのように感じます。このような複製の失敗は,時として病気等の原因ともなるわけですが,一方では多様な特徴を持つ個体の発生に貢献したり(この結果として環境適応の幅が広がるのです),さらには種の進化に関係してくると考えられています。
 メラニン色素の製造に関係しているDNAも例外ではなく,少なからず複製に失敗し,設計図としての役割を果たせないという事態に陥ることがあります。設計図,つまりDNAが壊れてしまったと考えればわかりやすいでしょう。このようなDNAをもった個体はメラニン色素の製造能力がないわけで,本来なら備わっているべき黒色の色素と黄色の色素のうち,黒色の色素が欠如し,黄色の色素のみを有するということになります。そうなると,ノーマル種では黒色の色素に覆い隠されていた黄色の色素が表面に現れてくることとなり,全身がクリーム色を示すルチノー種となるわけです。つまり,ルチノー種とは,メラニン色素の欠乏の結果として生じた色変わり種であるとまとめることができるのです。
 以上の説明を,もう少し一般的な形でまとめておきましょう。原種のオカメインコは,個体差はともかくとして,種としての特徴は共通しています。全てに冠毛があったり,配色に規則性があったりするのは,その設計図である一連のDNAを共通に持っているからです。しかし,共通に持っているたくさんのDNAのうち,ある一部分が変化し,それがたまたま体色に関係しているような場合には,ノーマル種とは異なる特徴を持った色変わり種が誕生する可能性があるわけです。要するに,色変わり種の特徴を支えているものとは,ノーマル種(正確には原種というべきです)が持ち合わせていないある特定の遺伝子ということになります。しかしこの遺伝子は,もともとはノーマル種が普通にもっていた遺伝子にまでさかのぼることができ,両者の遺伝子構造にはごくわずかな相違が認められるばかりなのです。
 さて,ノーマル種が本来持っていた一連のDNA群を,ここではノーマル遺伝子という言葉で総称することにします。これに対して,色変わり種の特徴を支えている遺伝子は色変わり遺伝子という言葉を用いることにします。上記の例では,メラニン色素の製造を命令する遺伝子はノーマル遺伝子の一つであり,何らかの変化が起きたためにメラニン色素の製造ができなくなってしまった遺伝子は色変わり遺伝子(ルチノー種の特徴を支えている色変わり遺伝子なのでルチノー遺伝子と表現していきましょう)という関係にあります。
 ノーマル遺伝子はノーマル種(原種)が持っているあらゆる遺伝子の総称として用いている事には十分注意しておいてください。これに対して,色変わり遺伝子とは,その色変わり種を後づけている特定の遺伝子を指していることになります。

2-2 対立遺伝子という考え方

 基本的には,染色体は2本で一対を形成していました。対を形成している染色体の同じ位置には,同じような役割を持つ遺伝子が乗っていることも説明したと思います。したがって,遺伝子のはたらきを考える場合にも,2つの遺伝子をペアで考えるのが基本となります。このように,常にペアで考えるべき遺伝子は対立遺伝子と呼ばれています。
 さて,私たちは本章第1節でノーマル遺伝子と色変わり遺伝子の存在を学びました。ノーマル遺伝子とは,原種が本来もっていた一連の遺伝子の標準的セットです。これに対して,色変わり遺伝子とは,ホワイトフェイス遺伝子,パイド遺伝子,ルチノー遺伝子,パール遺伝子,シナモン遺伝子ということになります。
 もう一度確認しておきますが,これらの色変わり遺伝子にはそれぞれ別々のノーマル遺伝子が対立遺伝子として位置づけられているという点には注意しておいてください。ノーマル遺伝子は,あくまで総称だということです。ホワイトフェイス遺伝子も,パイド遺伝子も,またその他の色変わり遺伝子も,全てノーマル遺伝子が変化してできあがったものであることには変わりありません。
 学術的には正確でないかもしれませんが,理解を助けるために,色変わり遺伝子とノーマル遺伝子(対立遺伝子)との対応を少し具体的に示してみましょう。

  【色変わり遺伝子】 ⇔ 【対立遺伝子としてのノーマル遺伝子】
ホワイトフェイス遺伝子 ⇔ 黄色の色素を製造するノーマル遺伝子
    ルチノー遺伝子 ⇔ メラニン色素を製造するノーマル遺伝子
     パイド遺伝子 ⇔ 規則正しい配色を決定するノーマル遺伝子

 上記の例でいえば,“黄色の色素の製造を命令するノーマル遺伝子”と“ホワイトフェイス遺伝子(黄色の色素が製造できなくなった遺伝子)”は対立遺伝子の関係にあります。この2つの遺伝子は対立遺伝子ですから,常にペアで考えていかなければならない関係にあります。同様に,“メラニン色素を製造する遺伝子”と“ルチノー遺伝子”も対立遺伝子,“規則正しい配色を決定するノーマル遺伝子”と“パイド遺伝子(規則性のない配色を生み出す遺伝子)”もまた対立遺伝子の関係です。
 しかし,“黄色の色素を製造するノーマル遺伝子”と“メラニン色素を製造する遺伝子”同士はペアで考える必要はありません。お互いに何ら影響を及ぼしあわない遺伝子だからです。“ホワイトフェイス遺伝子”と“ルチノー遺伝子”もペアで考える必要はありません。これらは対立遺伝子ではなく,お互いに独立して機能する遺伝子なのです。
 本稿で取り上げている色変わり種を前提にすると,オカメインコの色変わりを根底で支えている色変わり遺伝子間には,全て対立関係がありません。色変わり遺伝子同士の対立関係は全く考えなくても良いということです。
 ここで,記号を用いて対立遺伝子をまとめておきましょう。なお,記号はみなさんそれぞれが分かればよいので,以下に紹介する書き方の規則にとらわれる必要はなく,みなさんで工夫してみるのも良いでしょう。

【表記の規則例】

  (注)ここでは表示に限界があるため,下付文字を( )で代用します。

【遺伝子の表記例】

 パイド遺伝子

pd

N(pd)
 ホワイトフェイス遺伝子

wf

N(wf)
 ルチノー遺伝子

lu

N(lu)
 パール遺伝子

pl

N(pl)
 シナモン遺伝子

cn

N(cn)

2-3 優性・劣性の関係

 遺伝を考えるにあたって,対立遺伝子を常にペアで考えていかなければならないことはわかりましたね。では,なぜそうしなければいけないのでしょうか。対立遺伝子間にはどんな関係があるのでしょうか。話を進めていきましょう。
 実は,対立遺伝子間には,遺伝子の出す命令に強い・弱いの関係があるのが普通です。強い命令を出す遺伝子を優性遺伝子と呼び,弱い命令を出す遺伝子を劣性遺伝子と呼んでいます。オカメインコの場合,本稿で取り上げている色変わり遺伝子については,全て劣性遺伝子であることが知られています。逆に言えば,色変わり遺伝子の対立遺伝子(つまり特定のノーマル遺伝子)は優性遺伝子であるということになります。対立遺伝子間では,原則として,一方が優性遺伝子であれば他方は劣性遺伝子であると考えればよいでしょう。
 さて,対立遺伝子間における優性・劣性関係の最大の特徴点は,優性遺伝子は劣性遺伝子の命令を無効にしてしまうという点です。強い命令は弱い命令を無効にするとも表現できます。これは一体どういう意味なのでしょうか。
 対立遺伝子をペアとして考えていくのが原則だというのは上述したとおりです。そして,遺伝子には優性遺伝子と劣性遺伝子があることも解説しました。そうすると,優性遺伝子と劣性遺伝子の組み合わせとしては,次の3通りが考えられることになります。

  1) 優性遺伝子と優性遺伝子の組み合わせ
  2) 劣性遺伝子と劣性遺伝子の組み合わせ
  3) 優性遺伝子と劣性遺伝子の組み合わせ

 1)の場合には,両方の遺伝子はともに強い命令を出していますので,優性遺伝子の命令がそのまま有効に作用します(2つの優性遺伝子がともに強い命令を出すといっても,2倍の効果があるというわけではないですよ)。
 2)の場合には共に劣性遺伝子ですから,弱い命令しか出されていません。しかも,その命令をはじき飛ばしてしまうような強い命令は存在していませんね。ですから,劣性遺伝子の命令がそのまま有効に作用することになります(これもまた,弱い命令が2つ出されていて,両方を足せば強い命令になるという意味ではないです)。
 それでは3)の優性遺伝子と劣性遺伝子の組み合わせではどうでしょうか。優性遺伝子は強い命令を出す一方,劣性遺伝子は弱い命令しか出せないので,結果的には劣性遺伝子の命令は優性遺伝子の命令によって消されてしまうことになります。つまり,3)のようなケースでは優性遺伝子の命令のみが有効に作用することになります。
 少し混乱しそうなので,具体的に考えてみましょう。パイド遺伝子(pd)を例に考えていきます。対立遺伝子は特定のノーマル遺伝子(N(pd))ですね。pdとN(pd)は対立遺伝子であり,pdは劣性,N(pd)は優性を示しています。この対立関係にある遺伝子の組み合わせは次のようになります(数字は上のものと対応しています)。

  1) N(pd)とN(pd)の組み合わせ
  2) pdとpdの組み合わせ
  3) N(pd)とpdの組み合わせ

 可能性として考えられる遺伝子の組み合わせは以上の3通りしかありません。それでは,それぞれの組み合わせのような遺伝情報を持つ個体は,どのような品種になるのでしょうか。
 1)の場合,優性遺伝子同士の組み合わせですので,問題なく優性遺伝子の命令が実行され,品種的にはノーマルとなります。
 2)の場合,劣性遺伝子同士の組み合わせですから,劣性遺伝子の命令がうち消されることはなく,劣性遺伝子の命令がそのまま有効となります。したがって,品種的にはパイドということになります。
スプリットパイドのイラスト さて3)の場合には,優性遺伝子によって劣性遺伝子の命令が無効にされてしまいますので,優性遺伝子の命令が実行されることになります。つまり,品種的にはノーマルとなるわけです。ただ,3)の場合には,外見上はノーマルですが,遺伝子レベルではパイド遺伝子を1つ隠し持っているということができます。このように,色変わり品種の特徴が外見に表れてはいないものの,色変わり遺伝子を隠し持っている状態をスプリットという言葉を使って表現しています。スプリットという表現はもともとブリーダーさんたちの間で使われていたようですが,今では一般的になったといって良いでしょう。ここで取り上げた例では,3)は一見ノーマル種であるわけですが,実際にはパイド遺伝子を隠し持っているので,スプリットパイドであるというのが正確な表現です。

【ちょっと休憩 〜 劣性は劣っているという意味ではありません】
 ここでは,言葉に関する若干の注意を喚起しておきたいと思います。優性と劣性という言葉は,決して遺伝子の優劣を示しているわけではなく,遺伝子が出す命令の相対的な強さを示しているにしか過ぎません。優性遺伝子が望ましい遺伝子・優れた遺伝子であるとか,逆に劣性遺伝子は虚弱体質の原因であるというような理解は誤っているといってよいでしょう。
 正確なデータはもっていませんが,経験的にいえば,色変わり種はノーマル種と比べて何らかの問題を抱えた個体がほんのわずかですが多いような印象があります。また,野生において色変わり種を頻繁に見かけるということはまずあり得ません。しかし,この2つの事実を混同するのは間違いだと思っています。
 野生における色変わりについて考えてみましょう。例えば,ルチノー種はメラニン色素が欠乏しているわけで,それだけ紫外線の影響を受けやすいということは事実です。さらに,保護色の意味合いを失っているために外敵に狙われやすく,結果的には野生での色変わり種の生存率は低くなってしまうでしょう。
 しかし,このような事実は飼い鳥としてのオカメインコに決定的なダメージを与えることはありません。室内で飼っているなら紫外線はあまり関係ありませんし,そもそも外敵に狙われるようなことはないからです。つまり,飼い鳥としての色変わりオカメインコに何らかの問題点があるとすれば,もっと違った理由が他にあるように思うのです。
 私たちにとって重要なことは,色変わり種の量産を目的として無理な繁殖をすることは絶対に避けなければならないということなんです。近親交配を重ねていけば,色変わり種に限らず虚弱体質の個体が発生してしまいます。“色変わり種はもともと弱いものだ”というようなことが,あたかも真実であるかのように語られるのは好ましくありません。しっかりとした知識に基づいてブリーディングしていくことこそが,最適な戦略となってくるのです。

2-4 遺伝を考える基本的な視点

 ここまでの理解をベースにすれば,オカメインコの遺伝のほぼ全体をとらえることが可能となります。これは決して言い過ぎではありません。ここまで読み進まれた方は自信を持ってください。これから先は単なる応用の世界です。わからないと思ってもあきらめずに基本に立ち返ってみると,きっと理解することができるようになると思います。基本が一番大切です。
 もう一度まとめておきましょう。遺伝を考える基本的パターンは,以下のようになります。

 1. 遺伝子の動きを追うためには染色体の動きを追っていけばよい。なぜなら,遺伝子は染色体上に存在しているからである。
 2. 染色体は2本で一対である。しかし,減数分裂によって,精子や卵子の染色体は通常の半分になっている。これに伴い,原則として遺伝子も半分となる。
 3. 染色体が2本で一対であることからも分かるように,原則として遺伝子は常に2つの遺伝子をペアとして考えていく(対立遺伝子という考え方)。対立関係にない遺伝子同士はお互いに作用を及ぼしあわないので,ペアで考える必要はない。
 4. 対立遺伝子間には,優性・劣性の関係があるのが普通である。優性同士あるいは劣性同士の組み合わせはそのまま考えていけばよいが,優性遺伝子と劣性遺伝子とが組み合わさった場合には優性遺伝子の命令だけが有効となる。

 これからあとの解説では,以上の基本的パターンを少し具体的に展開しているだけです。基本から一歩一歩着実にステップアップしていけば,遺伝の仕組みは以外と簡単だなと思えるようになるはずです。次節からは,仮想ブリーディングを始めてみましょう。どんな両親からどんな子供が産まれてくるのか,頭の中でたくさんのオカメインコを繁殖させてください。

2-5 常染色体上の色変わり遺伝

 常染色体に関わる色変わり遺伝はパイドとホワイトフェイスでした。ここでは,常染色体上の色変わり遺伝としてパイドを例にとって遺伝の仕組みを考えていきましょう。なお,常染色体はオスとメスとで共通していますので,本節での解説に雌雄の差は重要でないことを断っておきます。
 いま,パイドのオスとスプリットではない純粋なノーマルのメスをブリーディングしてみましょう。結果として,どのような品種の子供が産まれる可能性があるのでしょうか。まずは図2-1を眺めてください。これは,減数分裂の仕組みをパイド遺伝子が存在している常染色体に注目して図解したものです(一部簡略化しています)。

図2-1 パイド×ノーマル

 さて,オスの遺伝子に注目してください。このブリーディングでは,オスにパイドを用いています。パイド遺伝子は劣性遺伝子ですから,このオスがパイドであることを外見から判断できるということは,すなわち劣性遺伝子(パイド遺伝子)を2つもっているということを意味しています。なぜならば,もしも優性遺伝子であるノーマル遺伝子(ここではN(pd)を指します)を1つでももっているとすると,外見上はノーマルとなってしまうからです。これについては本章第3節で解説したことですので,混乱した方は第3節をもう一度読み返してみましょう。
 続いてメスですが,スプリットではない純粋なノーマルということですから,N(pd)を2つもっていることになります。
 こうして両親の遺伝情報が把握できたら,次に,これらの両親から作られる精子と卵子が有する遺伝情報について考察を進めていきます(染色体の動きから遺伝子の動きを理解する癖をつけてください)。オス親はpdpdという遺伝情報をもっていますから,減数分裂の結果として作られる精子の遺伝情報は必ずpdということになります。一方,メスの親はN(pd)N(pd)という遺伝情報をもっているので,作られる卵子の遺伝情報は必ずN(pd)となります。
 この精子と卵子が受精すると,受精卵の遺伝情報は必ずN(pd)pdという組み合わせになります。つまり,ここで例示したブリーディングからは,外見上はノーマルの子供が100%出現しますが,遺伝情報としては全ての個体がスプリットパイドであるということになります。
 では,続いて,両親がともにスプリットパイドであるとすればどのような結果が予想されるでしょうか。このような場合にも考え方は全く同様です。図2-2を見てください。

図2-2 パイド×パイド

 オス親の遺伝情報はN(pd)pdですね。減数分裂によって染色体数は半減し遺伝情報も半分になってしまいますから,この親から作られる精子のうち,50%の精子がN(pd)の遺伝子を有し,残りの50%の精子がpdの遺伝子を有すると考えられます。N(pd)という精子とpdという精子は半々で出現するということになり,出現確率は共に等しくなるわけです。同様の考察はメス親にも適用できます。N(pd)pdの遺伝情報を持つメス親から作られる卵子は,確率計算上では50%がN(pd)の遺伝子を有し,残りの50%がpdの遺伝子を有することになります。
 さて,これらの精子と卵子が出会い,受精する確率を考えてみましょう。N(pd)の精子とN(pd)の卵子が受精する確率は25%(0.5×0.5=0.25)ですので,N(pd)N(pd)の遺伝情報を持つ子供(純粋なノーマル)が産まれる確率は25%ということになります。次に,N(pd)の精子とpdの卵子が受精する確率は25%で,さらにpdの精子とN(pd)の卵子が受精する確率も25%ですから,遺伝子の組み合わせとしてN(pd)pdの遺伝情報を持つ子供(スプリットパイド)が生まれる確率はあわせて50%(0.25+0.25=0.5)となるでしょう。最後に,pdの精子とpdの卵子が受精する確率は25%ですから,pdpdの遺伝情報を持つ子供(パイド)が生まれる確率は25%ということになります。
 なお外見から判断できる品種としては,ノーマル種が生まれる確率が75%,パイド種が生まれる確率が25%となります。
 染色体の動きと遺伝子の動きを把握し,そして優性・劣性の関係を考慮していけば,以上のように遺伝を理論的に理解することができるのです。

2-6 マトリックスの利用

 前節では矢印を利用しながら精子と卵子の組み合わせを一つ一つ考えていきました。もちろん,この方法によって精子と卵子の組み合わせを考えていくことは間違いではありません。しかし,遺伝情報が複雑になってくると,この方法によって組み合わせを網羅することは容易ではなくなってしまうでしょう。そこで,もっと簡単に組み合わせが網羅できる方法をご紹介します。マトリックスを使うのです。
 前節と同様に,パイドのオスとスプリットではないノーマルのメスのペアを想定してお話を進めていきたいと思います。まず,パイドは常染色体上の遺伝である(性染色体上の遺伝ではない)ことを押さえておきましょう。そのうえでパイドは劣性遺伝ですから,パイドのオスの遺伝情報はpdpdと書くことができましたね。これに対し,メスはスプリットではないノーマルだということですので,パイド遺伝子の対立遺伝子に特に注目して表記すると,N(pd)N(pd)であることがわかります。
 減数分裂を経て,pdpdのオスの精子はpdまたはpdの遺伝情報を伝達します。一方,N(pd)N(pd)のメスの卵子はN(pd)またはN(pd)の遺伝情報を持っていることがわかります。ここで精子と卵子の組み合わせを考えることになるのですが,マトリックスを利用すると比較的容易に解答が出るのです。図2-3を見てください。

【図2-3】
オスの体細胞 pdpd
精子
pd pd
メスの体細胞
N(pd)N(pd)

卵子

N(pd)

N(pd)

 このマトリックスの横軸ではオスの遺伝情報を考えています。オスの体細胞の遺伝情報はどうなっているのか,またそこからどのような遺伝情報を持った精子が作られるのかについて記されていることがわかるでしょう。縦軸ではメスの遺伝情報を考えていますが,これは横軸の考え方と全く同様です。メスの体細胞の遺伝情報を考え,そこから卵子の遺伝情報を把握します。
 これまでの作業によって,マトリックスには既に精子と卵子の遺伝情報が記入されていますから,あとはその組み合わせを考えていきます。つまり,図2-3でAからDと書いておいた空白のセルを埋めていくことになります。
 Aのセルにはどのような遺伝情報を書けばよいでしょうか。pdという精子とN(pd)という卵子が受精するわけですから,その遺伝情報はN(pd)pdとなることがわかります。Bのセルはどうでしょうか。これも,Aのセルと同様に考えることができますね。当然ながらN(pd)pdです。こうして全てのセルを埋めていくと図2-4が完成することになります。

【図2-4】
オスの体細胞 pdpd
精子
pd pd
メスの体細胞
N(pd)N(pd)

卵子

N(pd)

N(pd)pd

N(pd)pd
N(pd)

N(pd)pd

N(pd)pd

 全てのセルがN(pd)pdであることがわかります。つまり,産まれてくる子供は全てスプリットパイドになるという結論が導き出せるのです。この結論は,前節でのそれと全く同様であることがおわかりになるでしょう。以上のように,マトリックスを利用すると,より簡単にかつ正確に結論が導き出せるのです。
 マトリックスというと大袈裟に聞こえますが,図解を用いてもマトリックスを用いても,遺伝の考え方そのものは全く変化していません。精子と卵子の組み合わせをどのような方法で考えていくのかということが唯一の相違点なのです。マトリックスが利用できるようになると遺伝の理解が飛躍的に深まりますので,ぜひともマトリックスに慣れてほしいと思います。

2-7 マトリックスをより合理的に作るには

 第6節では,最も無理のないわかりやすいマトリックスの作成方法について書いてみました。減数分裂のイメージをそのままマトリックスとして示したのです。しかし,さらに合理的にマトリックスを作ることができます。
 先ほどから用いているペアで説明していきましょう。パイドのオスはpdpdですから,このオスの精子は必ずpdであることがわかります。これまではpdまたはpdと説明してきましたが,つまりは必ずpdであるというのに等しいことがわかるでしょう。同様に,ノーマルのメスはN(pd)N(pd)ですから,このメスの卵子は必ずN(pd)になります。ここで精子と卵子の組み合わせを考えてみましょう。もっともマトリックスを作成するまでもない例ですが,練習のためにマトリックスを作ってみます。図2-5をご覧下さい。

【図2-5】

オスの体細胞
pdpd

精子 pd

メスの体細胞
N(pd)N(pd)

卵子 N(pd)

N(pd)pd

 実に単純なマトリックスができあがりました。しかし,考察結果は図2-4と全く同じで,全ての子供がスプリットパイドであることを示しています。
 減数分裂によって染色体数が半分になりますから,それをそのまま遺伝情報の表記に持ち込んだのが図2-4です。これに対して,精子と卵子の遺伝情報を「出現の可能性・確率」という観点からマトリックスを作ったのが図2-5です。遺伝の考え方に慣れてきたら,図2-5のような簡略化したマトリックスを作るようにして下さい。これから先,遺伝情報が複雑になってもマトリックスが必要以上に複雑になることはなく,正確に考察することができるようになります。

マトリックスの作り方

 では,例題を出しますので解いてみて下さい。解答は章末に付けておきます。

【例題1】
 スプリットホワイトフェイスのオスとホワイトフェイスのメスのペアからは,どのような子供がどのような確率で産まれてくるでしょうか。以下に作られたマトリックスを利用しながら考えてみて下さい。

オスの体細胞(     )

(     )

(     )

メスの体細胞
(     )

(     )

(     )

(     )

【例題2】
 スプリットパイド同士のペアの場合,どのようなマトリックスを作ることができるでしょうか。また,そこからどのような考察ができるでしょうか。

2-8 性染色体上の色変わり遺伝 〜 どこが違うのかな?

 これまでは,常染色体上の色変わり遺伝について解説してきました。第8節では,性染色体上の色変わり遺伝について解説していきます。
 まず,性染色体上で遺伝する色変わり種には何があったのかを思い出しておきましょう。ルチノー(lu),パール(pl),シナモン(cn)などでしたね。そして,オスの性染色体の組み合わせはZZで,メスの性染色体の組み合わせはZWであったことも記憶の片隅から引っぱり出しておきましょう。さらに,色変わり遺伝子はZ染色体上にのみ存在するのであって,W染色体上には存在していないという事実も再確認しておきましょう。このような特徴を持つ遺伝形式を,専門的には伴性遺伝と呼んでいます。
 これだけわかっていれば,性染色体上の色変わり遺伝が理解可能です。試しに,パールのオスとノーマルのメスを掛け合わせてみましょう。なお,性染色体上の色変わり遺伝では,オスとメスの区別が重要となってきますので,この点には十分注意しながら理解を進めて下さい。
 まず,オスのパールの遺伝情報はどのように書き表すことができるでしょうか。パールは性染色体上の遺伝であることがわかっているので,第一に性染色体に注目する必要があります。オスの性染色体はZZの組み合わせでしたね。さらに,品種がパールであるということから,このオスは劣性のパール遺伝子を2つ持っていることがわかります(1つしか持っていない場合,片方のZ染色体上にパール遺伝子があり,もう片方のZ染色体上にノーマル遺伝子が乗っていることになり,結果的にはスプリットパールとなってしまいます)。これを記号で表すと,Z(pl)Z(pl)と表すことができます。Z染色体上にどのような色変わり遺伝子が乗っているのかということを( )で示すのです(通常は上付き文字で示しますが,表示の限界から( )で代用させています)。
 これに対してメスはどうでしょうか。メスであるということから,性染色体はZWの組み合わせであることがわかります。さて,W染色体上には色変わり遺伝子が存在していませんから,もう片方のZ染色体のみに注目していけばよいといえます。
 もしもZ染色体上にパール遺伝子が乗っていたらどうなるでしょうか。Z(pl)Wの場合,このパール遺伝子の働きを押さえ込んでしまうノーマル遺伝子(N(pl))は存在していませんね。なぜなら,伴性遺伝ではZ染色体上にのみ色変わり遺伝子が存在している(W染色体上には色変わり遺伝子が存在していない)からです。よって,Z(pl)Wはパール種のメスということになります。では,Z染色体上にパール遺伝子の対立遺伝子(N(pl))が存在しているならどうでしょうか。この場合にももちろんW染色体上には注目すべき遺伝子が存在していませんし,もともとN(pl)は優性遺伝子ですから,N(pl)の命令が有効となるわけです。よって,ノーマル種のメスということになります。
 ちょっと脱線しますが,ここにオカメインコのメスについて面白いことがいえるのです。すなわち,性染色体上の遺伝に関する限り,メスにはスプリットが存在しないということです。もう一度整理しながら考えてみて下さい。メスの性染色体の組み合わせはZWです。しかも,Z染色体上にしか注目すべき遺伝子が存在していません。したがって,メスの場合には,Z染色体上に存在する遺伝子の命令がそのまま有効となるわけです。これは遺伝子の優性・劣性の関係が崩れたというわけではありません。優性・劣性の関係に変化はないのですが,優性・劣性を考えるべき相手の遺伝子が存在していないのです。何度も述べていますが,W染色体上には色変わり遺伝子が乗っていないのです。この事実は,オスの場合と比較して考えてみれば,よく分かるように思います。オスの性染色体はZZの組み合わせですから,当然にスプリットの可能性を秘めていることになります。
 ここで,遺伝表記について若干の注意をしていただきたいと思います。これまでpdとかN(pd)などの記号を用いてきましたが,これらは特定の遺伝子を直接に示していました。しかし,性染色体上の遺伝を考える場合には,ZやWという特殊な染色体をまず認識し,記号で示します。ZやWはあくまで染色体の種類を示しているに過ぎないのです。そして,Z染色体上には色変わり遺伝子が乗っている可能性がありますので,実際に乗っている色変わり遺伝子の記号のみをZに( )で示します(W染色体上には色変わり遺伝子が存在していないので,色変わり遺伝子もノーマル遺伝子も一切考える必要はありません)。( )内にノーマル遺伝子を同時に示してももちろんかまいませんが,通常は省略します。なぜならば,Zに( )で何も示されていないということは,すなわちノーマル遺伝子が乗っていることを示しているに他ならないからです。省略しても問題ないものについては省略しておいた方がすっきりしますから,これが慣行となっているのです。

性染色体と伴性遺伝表記

 以下に表記例を書いておきますので,参考になさって下さい。

【表記例】

 ルチノーのオス     :Z(lu)Z(lu) つまりluが2つ
 スプリットシナモンのオス:Z(cn)Z つまりcnが1つとN(cn)が1つ
 ノーマルのオス     :ZZ
 ルチノーのメス     :Z(lu)W つまりluが1つ
 ノーマルのメス     :ZW

2-9 伴性遺伝をマトリックスで考える

 パールのオスとノーマルのメスのペアについて,いよいよマトリックスを作ってみましょう。パールのオスはZ(pl)Z(pl),ノーマルのメスはZWの遺伝情報を持っていると書き表すことができます。ここで,精子と卵子の遺伝情報を考えなければなりませんが,これについては減数分裂をそのまま当てはめればOKです。Z(pl)Z(pl)からは,Z(pl)またはZ(pl)の精子が,換言すると必ずZ(pl)の精子が作られます。一方,ZWからは,ZまたはWの卵子が作られます。2本で一対の性染色体が半分になるだけのことですね。これをマトリックスに示すと図2-6となります。

【図2-6】

オスの体細胞
Z(pl)Z(pl)

Z(pl)

メスの体細胞
ZW

Z

ZZ(pl)

W

Z(pl)W

 マトリックスの作り方自体は常染色体の時と全く同様ですね。親の体細胞からどのような配偶子が作られうるかを考え,それを性染色体に注意しながら整理するだけです。
 さて,ZZ(pl)の個体はどのような個体でしょうか。まず,性染色体の組み合わせがZZですから,オスであることがわかります。続いて,(Zなので)N(pl)と(Z(pl)なので)plの遺伝情報を持っていますからスプリットパールとなり,外見上はノーマルとなります。つまり,ZZ(pl)はスプリットパールのオスであるといえます。
 Z(pl)Wの個体はどうですか? ZWの組み合わせですから,メスであることがわかります。さらに,親から受け継いだ(パールに関係する)遺伝子はZ(pl)のplだけですから,外見上もパールとなります。つまり,Z(pl)Wはパールのメスであるといえるのです。
 ところで,上に挙げたペアリングはとても面白いことに気づいたでしょうか。というのは,このペアでノーマル(実際にはスプリットパール)が生まれたらそれはオスであることがわかり,逆にパールが生まれたらそれはメスであることがわかるのです。このように,性染色体上の遺伝に注目すると,産まれてくる子供の羽色によって雌雄判別が正確にできる場合があるのです。全てのペアでというわけにはいきませんが,遺伝の仕組みを理解すれば,このような副産物まで我々は手にすることができるのです。
 このからくりは,W染色体の存在に焦点を当てて考えると良いでしょう。W染色体はメスしか持っていません。したがって,子供のW染色体は必ずお母さんから受け継いでいることになり,同時にZ染色体は必ずお父さんから譲り受けたことになるのです。つまり,伴性遺伝に関する限り,産まれてきた子供がメスである場合は,その羽色はお父さんの遺伝情報にのみ依存すると考えられるのです。
 最後に例題を出しておきます。伴性遺伝ではオスとメスの区別が重要でしたね。これを確認するための例題です。

【例題3】
 スプリットではないノーマルのオスとパールのメスのペアを想定して,マトリックスを作って下さい。どんな子供が産まれてきますか?


【例題1の解答】
 スプリットホワイトフェイスのオスとホワイトフェイスのメスのペアでマトリックスを作ると,次のようになります。

オスの体細胞 N(wf)wf

N(wf)

wf

メスの体細胞
wfwf

wf

N(wf)wf

wfwf

 2つのセルの確率が等しいことをふまえると,スプリットホワイトフェイスが50%の確率で,ホワイトフェイスが50%の確率で,それぞれ出現することになります。なお,ホワイトフェイスの遺伝は常染色体上で行われますので,オスとメスの区別は重要にはなりません。

【例題2の解答】
 スプリットパイド同士のペアですから,マトリックスは次のようになります。

オスの体細胞 N(pd)pd

N(pd)

pd

メスの体細胞
N(pd)pd

N(pd)

N(pd)N(pd)

N(pd)pd

pd

N(pd)pd

pdpd

 4つのセルの確率は等しいので,それぞれのセルは25%の確率であることがわかります。したがって,純粋なノーマルが25%,スプリットパイドが50%,パイドが25%となります。

【例題3の解答】
 スプリットではないノーマルのオスとパールのメスのペアですから,マトリックスは次のようになります。

オスの体細胞 ZZ

Z

メスの体細胞
Z(pl)W

Z(pl)

ZZ(pl)

W

ZW

 ZZ(pl)はスプリットパールのオスで50%の確率です。ZWはノーマルのメスで50%の確率です。同じ品種同士の掛け合わせでも,オスとメスを入れ替えることによって,本章第8節での考察とは異なる結果になりましたね。もはや羽色による雌雄判別は不可能です。このように,伴性遺伝ではオスとメスの区別がとりわけ重要になってくるのです。
 ついでに,スプリットパールのオスとノーマルのメスのペアについても考察しておきましょう。マトリックスは次のようになります。

オスの体細胞 ZZ(pl)

Z

Z(pl)

メスの体細胞
ZW

Z

ZZ

ZZ(pl)

W

ZW

Z(pl)W

 この場合には,パールが生まれたらそれは必ずメスであるということができます(Z(pl)W)。しかし,メスが必ずパールかといえばそうではなく(ZW),外見上ノーマルの個体にはオスの可能性もメスの可能性もあることになります。


[論説・解説のトップページ] [第1章] [第2章] [第3章]